エスチュアリ Estuary 026

〜いしかり砂丘の風資料館だより〜



■展示資料のひみつ リターンズ

わらび形と飾り
全長  80cm
使用地 石狩市浜益区
時代  昭和30年代
寄贈者 佐藤清一さん

わらび形とは、荷車やソリを引く際に馬につける馬具の一種です。この資料は、長さが約80cmの木製で、左右2本に分かれており、皮ひもで頑丈に結び付けてあります。荷物の重さが集中するため、馬の肩に密着するようなカーブがついています。

このわらび形は、ばんば(挽馬)競争の際に使ったもので、茶色のテント用ビニール生地でできていて、飾りがついています。寄贈していただいた浜益区実田(みた)の佐藤さんによると、佐藤さんの持ち馬が挽馬競走で活躍していた昭和30年代に、幌(ぽろ)村の愛林組合(製材組合)から贈られたものだそうです。

昭和40年代まで農業や林業に馬は欠かせないものでした。農作業や山からの木材の運搬にたくさんの馬が使われ、ばんば競走も各地で行われていました。昨年、存続が問題となったばんえい(挽曳)競馬は、北海道独特の馬文化のひとつですが、これが生まれた背景には、このように全道各地で行われていた挽馬競走がありました。◆

(工藤義衛 くどうともえ)


この資料は「テーマ展/2006年のコレクション」で展示中!


■金子家文書を読む8

唯一の布製文書「『マル金』のみとり粉」

金子家文書には、紙に書かれた文書はもちろん、色々な材料の資料が含まれています。今回紹介するのは、その中で唯一、布製の資料です。

これは宣伝用に使われた白地の大きな布(縦×横1370mm×470mm)です。布の中心には赤色で「『マル金』のみとり粉」と大きな文字が染められています。

明治時代以降、北海道の開拓民は悪条件のもとで開墾や町づくりに携わっていました。それらの人びとを悩ませたものに蚊、蚤、しらみ、蝿などがあります。これらは単に人びとに不快感を与えるだけでなく、伝染病を媒介することもあり、さらに家畜にも危害を与えるものでした。

初代金子清一郎は明治25(1892)年、北海道としてはいち早く、石狩町花畔村38番地で除虫菊の栽培を試み、その後栽培を本格化しました(エスチュアリNo.14参照)。清一郎は自ら栽培した除虫菊を原料に、それを乾燥させ粉末にした「駆虫散“かいぶし”(一名:蚊やゐらず)」と称する蚊の駆除剤や蚤の駆除に有効な「のみとり粉」を製造していました。販売面でも、道庁の許可を得て全道広く行商(エスチュアリNo.15参照)し、各地の取扱店に商品を納めていて、多くの人々に愛用され開拓にも一役かっていたと思われます。

この布には「北海道物産共進曾褒状受領」の文字の記載を見ることができます。金子家文書の中には、明治39(1906)年9月26日に北海道物産共進曾で四等賞を受領した、という記録がありますから、初代清一郎の頃に作られたもと考えられます。なおこの布は、文字の赤色部分の染が落ちて滲んでいることから、行商の際や取扱店の店内に掲げ、宣伝効果をあげていたものと思われます。

大正5(1916)年2月15日、初代清一郎の死後、娘婿の金子岩平が二代目清一郎として初代の意思を継いで、石狩町除虫菊組合長の役職をも長く勤めました。◆

(村山耀一 むらやまよういち)


■よみがえる記憶

エスチュアリに文章が載ることになって、5回目となりました。私にとって、日頃の出来事や思いを文章にするのは、いつも至難の業です。

今回はものにまつわる思い出、蘇る記憶について書いてみたいと思います。資料館では毎年(今年で2回目)一定期間、「市民交流ひろば」というコーナーで、皆様から寄贈していただいた資料を展示します。自然科学から生活の匂いの感じられるものまで様々です。

現在展示中の、たしかに使われていた痕跡の残る染付けの便器から、小学生の頃に通っていた室蘭の学校のトイレを思い出しました。古い木造の校舎で、第二次世界大戦中、激しかった艦砲射撃によるけが人や亡くなった人をたくさん収容したそうです。そのような経緯から子供たちの間では「今日は○番のトイレから白い包帯が出てくる」などと実しやかに話されていました。先生に言えば一笑に付されてしまうことでしたが、子供心にむかし起きた恐い出来事に思いを馳せていたような気がします。

長い時間の中で、戦争があったことは忘れられてしまうかもしれません。でも、どんな形であれ記憶に留めておかなくてはと、大人になった私は思うのです。◆

(倉雅子 くらまさこ)


■冬の講座・展示、おしらせ

■野外講座/石狩ビーチコーマーズ/冬の漂着物

漂着物は渚の百科事典。石狩浜でビーチコーミング(漂着物の観察や採集)をして、海の環境と文化に思いをめぐらせます。
ガラスの浮き玉、外国のボトル、謎の生物の死骸…。冬の季節風が運んできた漂着物から、海の世界を覗いてみましょう。

■日時  2月25日(日)9:00〜13:00
■場所  砂丘の風資料館〜石狩浜
■対象  小学4年生〜大人(小学生は保護者同伴で)
■定員  20人(先着順)
■持ち物 防寒着、手袋、長靴、帽子等、ビニール袋
■費用  無料
■申込  2/4(日)〜2/23(金)の間に電話で資料館(0133-62-3711)へ

■テーマ展/2006年のコレクション

2006年も、大勢の方からいろいろな資料や標本を寄贈していただきました。感謝の気持ちを込めて、ご紹介します。例えば…

・札幌オリンピックの公式ガイドブックや各種目プログラム(笠谷の名も!)、バッジなどなど
・石狩の商家で明治時代から使用されていた「染付花鳥文角型大便器」
・石狩周辺では最大?のアオイガイ(長さ21cm)
・南国から石狩まで漂流してきたヤシの実

■期間 3月まで
■場所 砂丘の風資料館 市民交流ひろば
※資料館の入館料が必要です。

■旧長野商店復元工事進行中!

明治時代初期に建てられ、現在は市の文化財に指定されている旧長野商店は、2006年9月から砂丘の風資料館のとなりで、復元工事が進められています。現在(1月下旬)は、外壁の軟石工事や屋根瓦の設置工事も完了し、内装と展示工事を残すだけとなっています。2月中に建物を覆っているシートや足場を撤去する予定ですので、復元されてちょっと立派になった旧長野商店が姿を現すことになります。
一般公開は、5月を予定していますので、桜の花が咲く頃には、皆さんをご案内できると思います。


■「ありがとう」の一言

先日、ある記事が目にとまりました。

外国の人は、バスから降りる際やお店で買い物をする際に、必ず「ありがとうございました」と言い、言われたほうは「どういたしまして」「ありがとう」などと返すのが当たり前になっているけれど、日本ではあまりその習慣がない、というような内容でした。

確かに日本の場合はお店などに行った時、店員さんの「ありがとうございました」に対し、お客さんが「ありがとう」と言うことは少ないかもしれません。

しかしそこでふと気付いたのですが、実は資料館にいらっしゃるお客様は、ほとんどがお帰りの際に「ありがとうございました」と声をかけてくださる方ばかりだったのです。

その事を思い出し、何だか暖かい気持ちにさせていただきました。◆

(原田祐希 はらだゆき)


■写真から看板文字を読む

石狩市指定文化財・旧長野商店の建物の復元工事がたけなわです。同商店の創業は明治初期と考えられ、呉服、太物、小間物、塩、小麦粉などを商っていました。

復元の時代設定は、店舗新築の明治27年以降から大正前半として、外観及び内部展示を行う予定です。このため同商店の古写真など、参考資料を集めて調査中です。昔の大きな商店の外壁に味噌醤油などの宣伝用看板がかかっていました。これらが復元できれば当時のたたずまいが再現できます。大正期の旧長野商店の写真をみると、酒、塩、小麦粉など9枚の板看板がかけられています。現物はありませんので、写真から読み取って復元します。

その看板は、おそらく黒漆の地に金文字を載せた金看板と思われるもので、桜のマークに「漁網染料○渋エキス売捌(うりさばき)所」と書いてありました。○の部分はよく見えない部分で、当初○の部分には「※(下記参照)」の字が入るのでは、と考えました。「※」は「柿」の本字で、もし「※」とすれば「かきしぶ」と読めます。柿渋は綿や麻の漁網を染めるため、当時、盛んに使用されました。「漁網染料」とあったので、私は下の文字は「柿渋」と思い込んだのです。

ところが何度も写真を見るうち「○渋」にふってあるルビが5文字あり、また漢字も違うことに気づきました。改めて見るとどうも「※」と読んだ字は「木偏」に見えます。

参考文献で買った「柿渋」の本には、江戸時代、柿のない北海道や柿渋が入手困難なところでは「カシワ(槲)」の樹皮から渋をとって漁網を染めたとあります。そこで調べて見ると、明治から大正期にかけて、早来町や池田町などでカシワ樹皮からカシワ渋(タンニン)を作っていたことがわかりました。しかも文献にも「槲渋エキス」とありますから、○は「槲」が正解だと考えられます。この結果、看板は「漁網染料 槲渋エキス売捌所」と復元することになりました。◆

(石橋孝夫 いしばしたかお)

文中の※に入る漢字は、です。


■最近の「いしかり博物誌」(市広報に連載中)

第82回:砂浜の新参者「オニハマダイコン」(11月号)
第83回:石狩おばけ?―石狩湾の蜃気楼(12月号)
第84回:漂着物の季節(1月号)
第85回:石狩砂丘のはじまりはどこ?(2月号)


■編集後記

「ありがとう」「ごめんなさい」が言えない人(特に大人!)が多いなあ…と、よく思います。でも、そんな偉そうなことを言う自分は、ちゃんと言っているだろうか? 客観的に考えてみると、ちょっと自信がなくなります。あ、今号も読んでいただき、ありがとうございました。(K)


エスチュアリ No.26
2007年1月31日 発行

いしかり砂丘の風資料館
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TEL/FAX: 0133-62-3711
bunkazaih@city.ishikari.hokkaido.jp