エスチュアリ/Estuary〜いしかり砂丘の風資料館だより〜

No.030 2008年1月15日


■展示資料のひみつ リターンズ

高橋儀兵衛缶詰工場の看板
大きさ65cm×41cm×3cm
時代明治20年代


高橋儀兵衛(たかはしぎひょうえ)の缶詰工場は、明治10年に開業した開拓使石狩缶詰所の払下げを受けたものです。開拓使時代から鮭などの缶詰製造のほか燻製鮭(スモークサーモン)の製造を行っていました。

看板は、縦41cm、横65cm、厚さ3cmの木製で、表面には黒いウルシが厚く塗られています。上部には、様々な博覧会、品評会での受賞メダルが彫りこまれています。メダルの中央にあるのが「梅に二」のマークで缶詰のラベルにも用いられています。

「Smoked Salmon」「G. Takahashi」「Ishikari, Hokkaido.」と英語の標記が入っているのは、缶詰や燻製鮭を国外へ輸出していたからでしょうか。高橋が造る燻製鮭の評価は高く、明治23年の内国勧業博覧会をはじめ、多くの品評会、博覧会で表彰されています。また、明治33(1900)年のパリ万博にも出品したといわれています。◆

(工藤義衛 くどうともえ)


■海の歴史

漂着物は海からの手紙

樹枝状の雪の結晶。上空の水蒸気が多いときによく見られます。
(SnowCrystals.comより)
「雪は天からの手紙である」。初めて人工雪の生成に成功した中谷宇吉郎(1900〜1962)の言葉です。しかしこれは単に降ってくる雪を詩的に表現しただけではなく、科学的な意味を持っています。雪の結晶は、樹枝状六花(いわゆる雪印)、板状、柱状など、いろいろな形がありますが、どれになるかは、結晶が作られる上空の温度と湿度で決まります。つまり、降ってきた結晶の形を見れば、地上にいながらにして上空の気象状態がわかる、ということを言っているのです。

ギンカクラゲ。キチン質の白い円盤を浮きにして、海面を浮遊して生活しています。本来は西日本で多く見られます。昨年、北海道で初記録。
同じような手紙が、海からも届きます。海からの手紙、それは漂着物。海は身近なようで、まだまだわからないことだらけ。知られざる海洋生物、海と気候変動、海溝と地震、などなど…。特に深海ともなると宇宙と並んで“人類に残されたフロンティア”などとも呼ばれるくらい。海の観測や標本の採集をするには、調査船や潜水艇、人工衛星を駆使し、莫大な費用を必要とします。しかし、海からやってきた、海の状態を伝えてくれる漂着物は、浜辺を歩くだけで手に入ります。なんとタダです。

ルリガイ。粘液で作った浮袋で海面を浮遊する紫色の巻貝。ギンカクラゲを食べます。こちらも北海道初!
ここ数年、石狩浜周辺の漂着物には異変が起きています。アオイガイ、ヤシの実、ギンカクラゲ・ルリガイなど、熱帯・温帯の暖かい海の生物が、暖流によって北へ運ばれ、漂着物として次々と発見されているのです。アオイガイは2005年以降、3年連続で大量漂着していますし、ギンカクラゲやルリガイは西日本ではよく見られますが、2007年には石狩で漂着が確認されました。これは北海道で初めての記録です。これらの現象が、CO2の排出による地球温暖化現象の一端なのか、あるいは北太平洋で見られる10〜20年間隔で繰り返されている海洋変動など自然な変化によるものなのか、今はまだわかりません。しかし海で何かが起きていることは、確かに漂着物のメッセージに記されているのです。

海の歴史、気候の歴史を解明する方法の1つは、化石を調べること。化石になっている生物の生息環境から当時の環境を類推するのです(よく聞くのが、サンゴ化石があれば当時そこは暖かく浅い海だった、という例)。最近の石狩の暖流系漂着物が砂や泥に埋もれて化石になったら、それが未来の地質学者によって発見されたら…。いつもこの連載で紹介しているような海や気候の歴史に見られるような「事件」が、今まさに起きつつあるのかもしれません。◆

(志賀健司 しがけんじ)


☆このルリガイとギンカクラゲ、ただいま資料館で展示中!
(テーマ展「未来へつなげ!資料館のお宝展」、3/30まで)


■未来へつなげ!資料館のお宝展

11月中旬から任されていた寄贈品展の準備を、学芸員の皆さんの手をお借りしながら、なんとか終えることができました。 ポスター作り、寄贈していただいた品の配置、解説文を作成するための下調べなど初めて経験することも多く、まさしく生みの苦しみでした。

今回の仕事で、一番悩んだのは寄贈品展につけるタイトルです。
いろいろと考えているうちに、ふと、資料館の役割ってなんだろう?と思いました。自分なりに出した答えの一つが、“次の世代へ、現在・過去の時代を伝え残していく”ということでした。手から手、人から人へと受け継がれてきたもの、そこからわかる人々の営み。身近な自然から得られ、様々なことを想像できるもの。伝え残さなければいけないのは、なにも高い評価や値段が付いているものばかりではないと思います。資料館に持ち込まれる寄贈品との出会いも含めて、ちょっと大袈裟かも知れませんが、資料館のお宝といえるのでしょう。そこで、タイトルは『未来へつなげ!資料館のお宝展』とつけました。

限られたスペースの中で出会いのほんの一部しか展示できていませんが、12月から3月末まで開催しています。よろしければ、見にいらしてください。そして、感想を聴かせていただければ嬉しいです。お待ちしております。◆

(倉雅子 くらまさこ)


■冬の講座・展示、おしらせ

■野外講座「石狩ビーチコーマーズ/冬の漂着物」

漂着物は海からの手紙。浜辺の漂着物を観察・採集して、海の世界を覗いてみよう!
この時期は冬の北西季節風が浜に吹きつけます。寒さも厳しいけれど、遠くから運ばれてきたさまざまな漂着物を見ることができますよ。

・日時  2008年2月24日(日)9:00〜13:00
・場所  砂丘の風資料館〜石狩浜(※冬の砂浜を約3km歩きます)
・対象  小学4年生〜大人(小学生は保護者同伴で)
・定員  20人(先着順)
・持ち物 防寒着、手袋、長靴、帽子等、ビニール袋
・費用  無料
・申込  2/6(水)〜2/22(金)の間に電話で資料館(0133-62-3711)へ

■テーマ展「未来へつなげ!資料館のお宝展」

「古い写真が出てきました」「昔、家で/仕事場で使っていたものだけど」「海でこんな珍しい物を拾ったよ」…
資料館では、こんなふうにみなさんからいろいろな資料を寄贈していただくことがあります。それは資料館にとって、次の世代へと過去・現在の時代を伝え残すことができる、ありがたい“お宝”との出会いです。この一年は、どのようなものに出会ったのか? 2007年の寄贈品を中心に、展示をおこなってみました。身近な自然のもの、手から手、人から人へと受け継がれてきたもの。限られたスペースの中での展示ですが、資料館のお宝を、どうぞご覧ください。

・期間 2007年12月22日〜2008年3月30日
・場所 砂丘の風資料館 市民交流ひろば
※資料館の入館料(大人300円)が必要です。

■石狩油田の模型が寄贈されました!

かつては北海道の石油需要の半分以上を担った、石狩油田。その模型が資料館に寄贈され、展示中です。
本物と同じようにポンプを動かし、石油を汲み上げます。作ったのは、岩本龍夫さん。操業当時の油田の街、石狩市八の沢地区に住んでいた方です。


■石狩鍋誕生

「石狩鍋」は広辞苑にのるほど有名で、今やご当地鍋の筆頭といっても過言ではありません。「石狩鍋」という名前は戦後、石狩本町地区で生まれたものです。誰の命名か分っておりませんが、それ以前、この種の鍋は「サケ鍋」あるいは「アキアジ鍋」と呼ばれており、戦前からあったようです。

今確認できる最も古い「石狩鍋」の記載は、昭和29年6月の市街地図で、この地図には2軒の料理店が「石狩鍋」を売りに宣伝しています。ですからこの前に「石狩鍋」という名前ができていたと考えられます。当時の石狩川では、まだ鮭漁が許可されており、秋には勇壮な引き網と鮭料理が観光の目玉でした。「サケ鍋」「アキアジ鍋」でなく「石狩鍋」の名を生み出したのは、鮭観光をさらに盛んにするためだったと考えられます。その証拠に昭和31年第1回さけまつりでは、「石狩鍋」の看板を掲げた料理店が明らかに増加しています。当時できた観光協会も、この鍋の宣伝に力を入れています。さらに昭和34年11月のNHKテレビ「今日の料理」に「石狩なべ」が登場しており、これが全国に知られるきっかけとなったのでしょう。このときの材料表には「生さけ、豆腐、こんにゃく、たまねぎ、春菊、生しいたけ、こんぶだし、みそ、さとう、バター、粉ざんしょう」となっています。

地元では鮭は別として、入れるメインの野菜について「キャベツ」派、「白菜」派があるようです。しかし本来料理とは時代や嗜好に合わせ変化してゆくもので、どちらが正統派かというのは余り意味がないと思われます。今回、広辞苑の新版が出ますが、石狩鍋に続いて「ちゃんちゃん焼き」も載っているそうです。◆

(石橋孝夫 いしばしたかお)


■最近の「いしかり博物誌」(市広報に連載中)

第91回:「日の出正宗」のラベル(07年11月号)
第92回:石狩観光のはじまり(08年1月号)


■編集後記

今回のテーマ展「…お宝展」は、いつも受付に座っている倉さんにほとんど作ってもらいました。解説文も文献やネット等できちんと調べて考えてくれています。専門家だとついつい使ってしまう専門用語を一般の言葉に言い換えるなど、「普通のお客さんの視点」の、わかりやすい展示になったと思います。ぜひ見てください。(おかげで僕はサボらせていただき…いえ、他の業務に専念させていただきました。)(K)


エスチュアリ No.30
2008年1月15日 発行

いしかり砂丘の風資料館
〒061-3372 北海道石狩市弁天町30-4
TEL/FAX: 0133-62-3711
bunkazaih@city.ishikari.hokkaido.jp