いしかり博物誌/第5回
第5回 地下に眠る氷海の鯨
石狩湾新港付近には「分部越(ふんべこえ)」という地名が残っています。これはアイヌ語の「フムベ・オマイ」(クジラがいるところ)からきているもので、近くには「鯨塚」という地名もあります。
かつては石狩湾にも頻繁にクジラがやってきたことがうかがえます。今でもクジラやイルカの死体が浜に打ち上げられることがあるようです。
さらに昔、今からおよそ一万年前に最終氷期が終わり、温暖化とともに大陸の氷河が融けて海水面が100メートル以上も上昇しました。
それから何千年にもわたって石狩市は「古石狩湾(こいしかりわん)」と呼ばれる海の底にあったのです。
その時代のようすを如実に物語るのが、市内低地部の地下から発見されるクジラの化石です。
その一つ、石狩市郷土資料室に展示中のホッキョククジラの椎骨「ついこつ」(背骨の一つ)は、鯨塚付近から出土したものです。
それほど古くない(千年前くらい?)ものと考えられるので、化石といっても多くの人が想像するように石になっているわけではなく、骨そのものとして残っています。
ホッキョククジラとはヒゲクジラ類の一種で、体長は10から15メートル、大きいものでは20メートルにもなります。
名前のとおり北半球の寒冷域で生活し、日本付近ではオホーツク海やベーリング海など、流氷のある海で見られます。寒さに耐えるために皮下脂肪の厚さが50センチもあったり、流氷の下をくぐる邪魔にならないよう背びれを持たないのが特徴です。当時の石狩湾は、今よりも水が冷たかったのでしょうか。
このほかにも、紅葉山砂丘から出土した肋骨「ろっこつ」(これも資料室に展示中)、美登位(びとい)からの肋骨、札幌市手稲前田からの頸骨「けいこつ」から椎骨(北海道開拓記念館蔵)など、石狩市やその周辺からはいくつものクジラ化石が発見されています。
ひょっとしたら、あなたの家の下にもクジラが眠っているかもしれません。(志賀健司)
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