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いしかり博物誌/第60回

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年7月31日更新


第60回 新しい鮭を迎える儀式

先日(2004年9月18から19日)、第41回「石狩さけまつり」が盛大に行われましたが、毎年9月、石狩市内八幡(はちまん)の河川敷で行われているアイヌ民族の鮭祭り――「新しい鮭を迎える儀式」をご存知でしょうか。

この祭りは、昭和62年から行われています。正確にはお祭りではなく、神々に祈りを捧げる儀式――カムイノミです。平成16(2004)年は、9月5日に行われました。この儀式は「アシリ・チェプ・ノミ」と呼ばれ、「札幌アイヌ文化協会」が特別許可を受けて石狩川の鮭を捕獲する際に実施しています。
実はこの儀式、明治まで数百年間にわたり、石狩川を始めとする全道各地の鮭川で行われたアイヌ民族の重要な儀式でしたが、河川での漁の禁止により中断を余儀なくされたものです。「アシリ」―新しい、「チェプ」―魚(この場合、鮭のこと)、「ノミ」―祈る、という意味です。日本語に直すと、「新しい鮭を迎える儀式」で、鮭がふるさとの川に帰ってきたことを歓迎し、神々に感謝する意味があります。今は、儀式の場所や鮭の雌雄はあまり問題にされていませんが、明治以前は必ず川の河口で行われ、雄鮭だけが用いられるなど厳格なものだったと伝えられています。

なぜアイヌ民族は、このような儀式を行っていたのでしょうか。それは彼らにとって鮭は、冬を越すための大切な食料だったからでした。彼らは鮭を「シイペ(本当の食物)」とか「カムイ・チェプ(神の魚)」と呼びます。鮭が冬の食料としていかに大切だったかは、江戸時代、不漁で石狩川流域のアイヌの人々が多数飢え死にした事件があったことからも知ることができます

儀式に使われるイナウ(昭和62年)
アシリ・チェプ・ノミは、まず初漁で取れた鮭を祭壇の前に置き、神々への感謝と祈りの言葉が捧げられます。次いで、参加者は石狩河口の神、阿蘇岩山(あそいわやま)の神、村の神、手稲山の神などのイナウ(ご弊)に酒(にごり酒)を塗って感謝の気持ちを表します。

神々のための祭壇(アシリ・チェプ・ノミ案内状から転載)の写真
神々のための祭壇(アシリ・チェプ・ノミ案内状から転載)

石狩市八幡でのアシリ・チェプ・ノミ(昭和62年)の写真
石狩市八幡(はちまん)でのアシリ・チェプ・ノミ(昭和62年)

儀式に使われるイナウ(昭和62年)
儀式に使われるイナウ(昭和62年)
(石橋孝夫 広報いしかり2004年11月号掲載)