エスチュアリ Estuary 027

〜いしかり砂丘の風資料館だより〜



■石狩市指定文化財・旧長野商店、2007年4月29日より公開!

旧長野商店は、越後(新潟県)出身の長野徳太郎が創業した明治〜大正時代の石狩本町地区を代表する商店です。米穀、呉服類、雑貨などを扱い、八幡町の酒造場では、清酒、濁酒、焼酎の醸造も行っていました。平成8(1996)年に店舗と石蔵が、石狩市の文化財に指定されました。◆

(工藤義衛 くどうともえ)

建物の特徴

瓦屋根に洋風のアーチ窓をもつ和洋折衷の外観と、店舗と蔵がともに石造であることが大きな特徴です。店舗の建築は明治27年、石蔵はさらに古く明治10年代と考えられています。明治時代の石造建築物としては、道内で最古級です。

内部展示

店舗の内部は、明治から大正時代の石狩の商店の様子を再現しました。店に入ると土間の奥が一段高くなって畳が敷かれ、帳場があります。呉服や小間物などの商品は奥の棚に、ざるや桶などの雑貨は土間に置かれています。
石蔵では、長野家で使った漆器や新築当時の店舗の瓦、棟札、本町地区のジオラマなどを展示しました。また、創業者の長野徳太郎についてや、当時の石狩町の町並み、建物の特徴などについてパネル展示をしています。

そのほかの見どころ

店の正面に小麦粉、ぶどう酒、清酒、槲渋(かしわしぶ)エキス(No.26/4ページ参照)など、長野商店が扱っていた商品の看板を復元しました。いずれも今は残っていない会社や、販売していない商品の看板です。例えば槲渋エキスは、カシワの樹皮からつくるタンニンで、明治から大正にかけて北海道の工場で大量に生産されていました。しかし、第一次大戦後に海外から入った安いタンニンに市場を奪われ、生産中止に追い込まれました。復元した看板から当時の北海道の産業や生活について知っていただければと思います。


※旧長野商店の見学には、砂丘の風資料館の入館料が必要です。
入館料は2007年5月1日より、

  200円→300円(大人)

に変更させていただきます。
(中学生以下は無料)


■海の歴史

燃える氷で暖をとる?

恐竜の時代は、南極にも氷がないほど地球全体が暖かい時代でした。そんな中生代の白亜紀が終わり、哺乳類の時代、新生代に入ると、地球はどんどん涼しくなっていきました。しかしそんな歴史の中、急激な温暖化が訪れたのです。深海の水温が5〜6℃も上昇、その影響で深海の生物の3〜5割が絶滅。今から5500万年前のことです。このとき、いったい何が起きたのでしょうか。

天然ガスの主成分でもある、メタン。常温・常圧ではガス状ですが、低温・高圧の条件では、水の分子に取り囲まれて氷状になることがあります。メタンハイドレートです。火を近づけると燃えることから、「燃える氷」とも呼ばれています。メタンハイドレートを融かすと体積で164倍のメタンガスを得られます。これが世界中の海底(特に大陸のそば)の堆積物中に大量に眠っていることがわかってきたため、近年、新たな燃料資源として注目されています。

メタンハイドレートは、温度が低く大きな水圧のかかっている海底では「氷」のまま存在していますが、ちょっと温度が上がったり圧力が下がったりすると、融け出して大量のメタンガスを放出します。このメタン、実は非常に強力な温室効果ガスなのです。その効果は同じ重量の二酸化炭素の21倍。

5500万年前の事件は、このメタンハイドレートが犯人だという説が、最近有力になってきました。このころ北大西洋の海底では、火山活動が活発化していました。地下深くのマグマが地表(海底面)目指して上昇していったのですが、そこには大量のメタンハイドレート層があったのです。マグマの熱によってハイドレートは融解し、大量のメタンガスが大気中に放出された、というのです。最近の研究では、その量は炭素の重量に換算して1兆5000億トンとも言われています。これによる温室効果は単純に計算すると、大気中の二酸化炭素量が現在の20倍近くになった場合に相当します。

このシナリオは、まだ仮説の段階です。しかし、今後の地球温暖化が進行を予測する、あるいは食い止めるカギが、ここに隠されているかもしれません。◆

(志賀健司 しがけんじ)


■想像してみると…

暖冬といわれたこの冬も終わりに近づき、日差しに春の訪れを感じます。資料館周辺は冬とは打って変わって、人や車が行き交うようになりました。こちらにも、見学に来てくださるお客様が増えることを願ってやみません。

さて、資料館入口を入ると、さわれる展示物・クジラの骨の化石が目に入ります。6000年前から1000年前(時代でいうと縄文〜続縄文)のもので、現在の石狩平野のあたりが、まだ海だった頃に泳いでいたクジラです。お客様の多くは、「木みたい。」「この骨のスカスカ感が、骨粗鬆症を思い出すね。」などと言われます。最近、クジラやイルカが回遊する地域では、観光としてのウォッチングが人気を呼んでいるようです。石狩の海も沖合いに出ると、イルカ類が泳いでいたりするそうですが、この地に住んでいた縄文時代以降の人たちも、クジラを見て、雄大な姿に心躍らせたのでしょうか。

資料館にある一つ一つの展示物から、いろいろなことを想像してみると…
また、一味違うものが見えてくるかもしれません。◆

(倉雅子 くらまさこ)


■2007年の講座・展示、おしらせ

種類講座・展示日程場所
連続講座石狩大学博物学科専門課程(全4回)10月6日(土)、27日(土)、
11月10日(土)、23日(金・祝)
石狩市民図書館
オトナの体験講座化石複製計画7月14日(土)砂丘の風資料館
体験講座勾玉づくり
(主催:砂丘の風の会)
7月8日(日)砂丘の風資料館
体験講座土器づくり教室(2回連続)7月21日(土)→成形
8月4日(土)→野焼き
若葉小カルチャーセンター
紅葉山49号遺跡
体験講座化石のレプリカをつくる8月18日(土)砂丘の風資料館
体験講座(自然分野・詳細は未定)
野外講座石狩ビーチコーマーズ/春4月15日(日)石狩浜・砂丘の風資料館
野外講座地層をしらべる6月24日(日)望来海岸(厚田区)
野外講座石狩ビーチコーマーズ/秋10月21日(日)石狩浜・砂丘の風資料館
野外講座石狩ビーチコーマーズ/冬'08年2月24日(日)石狩浜・砂丘の風資料館
見学会旧長野商店見学会4月29日(日)旧長野商店(資料館の隣)
テーマ展石狩のチョウザメと鮫様(さめさま)4月28日(土)〜6月4日(月)砂丘の風資料館
テーマ展アオイガイとカイダコ9月〜10月砂丘の風資料館
テーマ展この一年のコレクション12月〜'08年3月砂丘の風資料館
★日程・内容などは変更になることがあります。
 詳細は、期日が近づいたら資料館ホームページ、エスチュアリ、石狩市広報などでお知らせします。

■テーマ展/石狩のチョウザメと鮫様(さめさま)

2005年3月に石狩湾で混獲された、ダウリアチョウザメの剥製(北海道開拓記念館収蔵標本)を初公開!さらに!今年、北海道指定文化財となった石狩弁天社の鮫様「妙亀法鮫大明神」像も、特別に展示します!

■期間 2007年4月28日(土)〜6月4日(月)
■場所 砂丘の風資料館 1階展示室
※資料館の入館料が必要です。

■野外講座/石狩ビーチコーマーズ/春の漂着物

春の浜辺。雪に埋もれていた漂着物が顔を出し、雪解け水が川から海へといろいろな物を運んできます。漂着物から海の環境・文化を考える、知的な遊び。それがビーチコーミングです。

■日時  2007年4月15日(日)9:00〜13:00
■場所  砂丘の風資料館〜石狩浜
■対象  小学4年生〜大人(小学生は保護者同伴で)
■定員  20人(先着順)
■持ち物 長靴、手袋、帽子、防寒着、ビニール袋等
■費用  無料
■申込  4/4(水)〜4/13(金)の間に電話で資料館(0133-62-3711)へ


■懐かしのオリンピックと我家のテレビ

テーマ展「2006年のコレクション」が先日(※2007年3月)終了しましたが、みなさんから寄せられたお宝の中に、1972年冬季オリンピック札幌大会の資料がありました。

当時、私は寒風吹き荒ぶ根室で6歳の時を過ごしていました。夏は家の前の急なガケを駆け下りることで、子どもたちの間で「勇気の印!」と箔がつき、冬は流氷に寝そべっている。そんなおてんば娘で、テレビなどあまり見ずに育ちました。もっとも、白黒テレビでつまらなかったのです。

しかし、オリンピック開催に伴い、カラーテレビを買おうか、札幌までオリンピック観戦に行こうかで、家族会議になりました。街角の小さな電器店に誇らしげに飾られているカラーテレビに憧れる私。オリンピック観戦を口実にネオン街へ行きたい父。ジャンケン一本勝負…。今まで数えきれないほどジャンケンで泣き笑いしてきましたが、この時ほど記憶に残っている勝ちジャンケンはありません。そして氷上の妖精・ジャネットリンに心奪われた時から、私はテレビに釘付けとなりました。

35年が経って、堂々とした木枠でブラウン管のチャンネルテレビは薄型で鮮明になり、箔のついたおてんば娘はすっかりおばさんに変身した。「地デジはいつになるかな〜」と耳元でささやく息子。ジャンケン一本勝負は避けよう。勝てる気がしないもの。◆

(大坂小百合 おおさかさゆり)


■思わぬ寄贈品〜長野商店の鬼瓦〜

3月初め、資料を寄贈したい、との電話がありました。電話の主は本町地区に古くからお住まいのOさんでした。寄贈品は長野商店に関するものだということでした。受領しに行って、もらってきた品物を見ると、何とそれは、長野商店の鬼瓦でした。しかも点検してみると完品で、左肩の部分にヘラ書きがありました。ヘラ書きとは、製造者が製作時期などを記すもので、これを見ると、いつどこで誰がその製品を作ったのかが判ります。はやる心を抑えて、和紙を水で濡らしてあて、拓本をとってみると、「明治二十七年七月上旬 札幌區遠藤白石工場謹製」と書かれていました。意外なことに札幌で生産された瓦で、7月上旬に焼かれていることから、建物の落成は7月末から8月と推定できます。

長野商店の瓦については、創業者の長野徳太郎が新潟出身であることから、その付近の瓦産地を想定して安田瓦を使用しました。しかし、鬼瓦のヘラ書きはその想定を見事に覆すものでした。まさに「想定外」という言葉がぴったりでした。瓦にある「遠藤白石工場」は、煉瓦を主に生産していた遠藤清五郎が経営していた工場と考えられます。遠藤の出身地は石川県で、故郷で習った製作技術を生かしたものと思われます。長野商店の外壁は札幌軟石ですから、瓦とともに地産地消のさきがけともいえるでしょう。また、生産地が札幌と近いことから建設コストも安くなったのでしょう。思いがけないところに思いがけない資料があるものです。今回の寄贈品は、タイミングがぴたりとあっていて、さっそく蔵の内部に展示させていただきます。ありがとうございました。◆

(石橋孝夫 いしばしたかお)


■最近の「いしかり博物誌」(市広報に連載中)

第86回:長野商店の大看板(3月号)
第87回:チョウザメの口は語る(5月号)


■編集後記

体長2.3mのチョウザメが石狩川で揚がったのは、今から3年前。その時は恥ずかしながら、その価値をほとんど理解していませんでした。世界的に絶滅の危機に瀕していること、分類も確定していないほどに研究が進んでいないこと、卵を産めるようになるまで20年近く要し、100年以上生きることもある、などなど…。知っていれば、各種計測やDNAサンプル採取など、やるべきことはたくさんあったのですが…。チョウザメのことを勉強すればするほど、悔やまれます。(K)


エスチュアリ No.27
2007年3月30日 発行

いしかり砂丘の風資料館
〒061-3372 北海道石狩市弁天町30-4
TEL/FAX: 0133-62-3711
bunkazaih@city.ishikari.hokkaido.jp