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石狩ファイル0128-01(2012年12月1日)

石狩浜のハマナス

いしかりはまのはまなす


ハマナス
石狩川河口の砂嘴(さし)に広がる「はまなすの丘公園」にはハマナスが群落をなしており、花期には濃いピンクの花を咲かせます。図鑑には「バラ科、丈50cm〜150cmの落葉低木」と書かれていて、石狩市内住宅地の街路や公園に植栽されたたくさんのハマナスは、図鑑の表現のような高さに成長しています。けれども石狩浜では、50cmに満たない丈のハマナスが広く分布しています。その理由は、海辺の厳しい環境にあります。

海からの強い風に対し、ハマナスは草丈を低くすることで適応し、夏の極度の乾燥には、地下茎を発達させ、そこから細いたくさんの根を地中に伸ばすことによって、地下数十cmの深さにある砂の中の水分を取り込んで成長します。葉は厚く表面に光沢があり、短毛や棘(とげ)の密生した枝も、乾燥の激しい浜の環境に適応しています。5月下旬からが花期ですが、丈は低くても、花の大きさは植栽されたハマナスに劣らず、5枚の花弁を開きます。開花した花は、ほぼ一日で散ってしまいますが、散った後も周囲に香を漂わせています。やがて、硬い緑色の実(正式には偽果(ぎか)と言います)が赤く熟してくると、次々に開く花と実が、枝先に同時に観察できるシーズンとなります。9月に入り、実の中の粒々の種子(正式にはこれが本当の果実)が大きく硬く成長し、実がはじけて所々に散らばり始める頃、花期は終わりを迎えます。やがて、冷たい風が吹き始め、雪が降り始めますが、風は内陸部よりも強く海浜草原を吹き渡るため、積雪は内陸部に比べて少なく、植物は凍結の危険にさらされることになります。草丈の低いのは冬の厳しさに適応するためでもあります。

昭和40年代には、花弁から香水が作られていました。実は、未熟な青いものは、地元の人たちが漬物の材料として利用し、赤熟してからは、果実酒やジャムの材料として利用されてきました。

石狩浜のハマナス群落は、江戸時代末期から規模の大きなものであったことが松浦武四郎の著作からもうかがわれます。石狩市内で長期に渡って浜の観察をしてきた人たちによると、かつての状態より、花が少なくなったのではないかとの声が聞かれます。現在、ハマナスは「石狩市の花」、また「北海道の花」に指定されていて、広い海浜草原に広がるハマナスは、北海道らしい印象的な景観を展開しており、今後とも大切にしたいものです。

(林 迪子)


参考文献


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