平成28年度 市政執行方針
平成28年度市政執行方針
平成28年2月29日(月曜日)
平成28年第1回石狩市議会定例会
平成28年第1回市議会定例会の開会に当たり、市政運営の基本的な考え方と施策の大要を申し上げます。
はじめに
昨年、政府において「1億総活躍プラン」と銘打ち「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」のアベノミクス新3本の矢が放たれました。
本市における地方創生は「石狩市まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき取り組んでおりますが、現実には社会で活躍したくても、そのスタートラインにすら立つことが難しい方々もいることを忘れてはならないと思います。とくにひとり親世帯や多子世帯は経済的に厳しい状況にある場合も多く、中でも一番影響を受けるのは子どもです。
本市の状況については継続的調査を行うことにしておりますが「今や6人に1人の子どもが貧困状態」という日本の現状を、私は深刻に受け止めております。
経済協力開発機構(Oecd)の調査によると、国における公的教育支出の対国内総生産(GDP)比は3.6%であり、他の先進諸国の5.4%に比して低い実態にあります。先進諸国並みに引き上げるには約7兆円の財源が必要となり、これは消費税約3%分に相当します。
また、国民1人当たりの政府支出を年齢別にみると、85歳以上の高齢者には1人当たり名目GDP(約370万円)を上回る支出の一方で、就学期の子どもは150万円に満たない状況です。
「限られた財源をどう有効に使うのか」
この課題に、今こそ真正面から向き合っていかなければ、将来、地方は取り残されていくのではないかと危惧しております。
「家庭における教育力の低下」「コミュニケーションの希薄化」など、子どもを取り巻く問題は一層多様化の傾向にあります。これまでの親に視点を置いた「子育て支援」だけではなく、直接的に子どもの実態に焦点をあてた「子ども施策」にも重点を置くべきと考えております。
そこで、私は新年度の予算編成に当たり、ひとつの決断をいたしました。
「社会全体で生まれた利益をできうる限り、子ども施策に優先配分する」ことです。この基本的な考えを明確に政策で示して参りたいと考えております。誤解を恐れずにあえて言うならば、子ども施策への投資は本市にとって最大の利益につながり、今これらの問題に対して、何の行動も起こさないことが最大のリスクになるとの危機感を持っているところであります。
以上を踏まえ、平成28年度の行政執行にかかる基本的な考え方と主要な事業について申し上げます。
第1の重点 子どもの未来を応援するまち
(子どもが健やかに育つまち)
昨年、施行となった新たな教育委員会制度を受け「総合教育会議」を設置いたしました。教育委員の皆さんとともに「人材育成・教育環境の充実」から「子育て支援」と多岐にわたる政策議論を重ね、新たな時代を生き抜くための人材育成など8つの施策方針をまとめた「教育大綱」を策定しました。
中でも重要視した課題のひとつは「子どもの貧困」であります。
「一億総中流幻想」の終焉を迎え、近年は「格差社会」の趣が強くなって参りました。
また、経済面のみならず、家族間でのDV、ネグレクトなど、劣悪で孤独な家庭環境に置かれている子どもは少なくありません。
このような経済面や愛情の貧困によって、子どもの将来に対する選択肢が奪われることがあってはなりません。健やかに育つ環境整備は喫緊の課題と認識しております。
医療、教育制度は本来、国が一定の水準を確保すべきと考えますが、市としては生活、学習面での多様な困り感に寄り添い、手を差し伸べる「アウトリーチ」によって適切な支援につなげていくことが必要である、との認識に立っております。
これら各課題は学校のみでの対応は難しい実態の中で、福祉的施策や民間力等を導入した新しいスキームとして、福祉部局と教育部局の取組を融合させ、生活困窮や困難に直面している家庭状況を把握した上で、有機的な支援体制を構築するとともに、すべての大人が一丸となり、子どもたちの未来を応援する環境づくりを推し進めて参ります。
「子どもの適切な居場所をどのように確保していくのか」
このことも大切な政策課題であります。
近年、とくに子どもたちがソーシャルネットワーキングサービス(Sns)に新たな居場所を求めるようになり、子どもの運動能力やコミュニケーション能力は昔に比べて、低下している傾向がみられます。そして実社会の中に自分の居場所を見つけることが難しい子どもが存在することは、現在の教育における大きな問題であります。
心も体も健全に育まれるよう「あいぽーと」「図書館」「給食センター」に加えて「公園」を整備し、それぞれの機能の統合化を図った新たな価値を有するエリアづくりを進めて参りたいと存じます。
ある研究によると、子どもの経済的・社会的成功と因果関係があるのは「思いやり」「協調性」「自制心」「やり抜く力」など人間が生きていくために大切な能力全般ではないかと論じております。
子どもにとって「確かな学力」と「強固な精神力」は、これからの社会を生き抜く力になると同時に、質の高い教育の提供は日本の未来を支える鍵となることから、引き続き教育環境の充実を図り、世界に羽ばたく「石狩っ子」の育成に努めて参ります。
(子育てを応援するまち)
昨年、政府は人口減少対策の目標として「希望出生率1.8」を掲げました。結婚から妊娠、出産、子育てまで各段階での悩みや不安を解消し、切れ目の無い取組を行っていくことは、今子育て支援の大切な視点であると考えます。かねてより検討を進めて参りました不妊・不育症に悩んでいる方々に対しまして、安心して子どもを産むことができるよう検査・治療にかかる費用の一部を助成し、経済的理由により子どもを諦めざるをえない方々に対し、少しでも思いを遂げることのできるよう支援して参ります。認可外保育施設を利用する多子世帯に対しましては、保育所等を利用する第2子以降の保育料を軽減いたします。また、突発的な医療費の負担軽減を行うため、これまでご議論を重ねて参りました入院にかかる医療費の一部助成を中学生まで拡大いたします。
女性の社会参加の視点も欠かすことができません。
仕事と子育ての両立を支えるため、子ども・子育て新制度に基づき「認定こども園」の整備を促進し、子どもを産み育てやすい環境づくりをさらに進めて参りたいと存じます。
(手話言語への展開)
私たちは、言葉によって感情を伝え、ものごとを表現し、理解しあい、コミュニティーを築いてきました。そのような意味で言語は人をつくり、社会をつくり、文化をつくるものだと思います。手話はろう者の感情や意思を伝え、文化を築きあげてきました。手話も私たちが発する言語と全く同じものだと考えると、日本語の無声音ではなく、明らかに手話言語と定義すべきと考えております。このことを理解し、地域社会がノーマライゼーションに向かうことを願い「手話基本条例」を制定してから2年が経過しました。多くの皆さんより、新しい空気感の漂う、手話言語への道が拓かれつつあります。
石狩翔陽高校では「語学として学ぶ手話語」を習得するため平成28年度選択科目に「手話語」を創設し、平成29年度から授業を開始する予定と承知しております。
独自の言語文化を有する手話を言語として習得することは、私たちが目指す、共生社会への意義深い一歩となるもので、石狩の学校から放つ強烈なメッセージは、多くの共感を呼び起こすものと期待しております。
昨年、市民の手で企画・開催された「石狩手話フェスタ2015」は、あらためて市民力の存在を高め、広がりへと続くことの可能性を実感させた素晴らしい大会となりました。平成28年度の開催に当たりましては市としても支援して参ります
第2の重点 安全・安心・健康に暮らせるまち
(ビッグデータを活用した健康づくりと医療費適正化)
近年、高齢化の進行等により社会保障費は増加の一途をたどっており、とりわけ国民健康保険事業におきましては、被保険者数の減少等による保険税収入の減少と、医療技術の進歩等による医療費の増加により、会計の運営は大変厳しい状況が続いております。このため、多額の累積赤字の解消を図るべく「第2次国民健康保険事業経営健全化計画」に基づき、一般会計からの法定外繰入等を行って参りましたが、国民健康保険会計の早期健全化を図るためには、累積赤字の解消とあわせて医療費をいかに適正化していくのかを考えていかなければなりません。
そのためには「病気治療」から「病気予防」への意識改革を行っていくことが重要となっております。
平成26年度の国民健康保険被保険者1人当たりの医療費は、1カ月当たり27,233円となっており、北海道の26,642円や全国平均の23,292円と比べて明らかに高く、とくに入院費の割合が高い状況にあります。
医療費の多くを占めているのは、高血圧症・糖尿病や脳血管疾患などの生活習慣に起因するものであります。
「国民健康保険データヘルス推進事業」を引き続き実践し、特定健診の受診結果や診療報酬明細書のデータ分析に基づく科学的アプローチにより、本市における疾患や医療費の傾向を把握するとともに、生活習慣そのものを改善していくための効果的な対策を講じて参ります。
(健康長寿社会に向けて)
本市において日常生活に支障があると思われる認知症患者数は1,800人前後と推測されております。一層の高齢化に伴い65歳以上の4人に1人が予備軍とされる認知症対策として「認知症地域支援推進員」を2名増員するほか、状態に応じた適切なサービスを提供し、住み慣れた地域での生活が続けられるように、さらなる相談体制の充実に努めて参ります。
「第2次健康づくり計画」がスタートする新年度におきましては「やらなければならない健康づくり」から「やりたくなるような健康づくり」「楽しい健康づくり」への意識と行動の転換を図り「自ら守り」「自ら創る」「みんなで守り」「みんなで創る」健康づくり施策を展開し「病気になりにくい心身づくり」を進めて参ります。
高齢者が気軽に集い、いつまでも健康で自分らしく活き活きと暮らせることが大切です。
健康づくりや介護予防に関する知識の向上や意識を高めるため、健康講話や軽スポーツの指導、体力測定、ラジオ体操などのモデル事業を地域と協働で行い、健康寿命の延伸を図って参ります。
(社会インフラの維持)
拡大するまちづくりとともに、1970年代に集中して整備された社会資本ストックは、一斉に老朽化が進み、適切に維持管理を行っていく必要性を強く認識しております。引き続き、社会インフラの安全性を確保しつつ、重点的かつ効率的な維持管理や更新投資を行っていくため、活用する施設を厳選しながら長寿命化を図っていきたいと存じます。
上下水道事業につきましては、現行料金の算定期間がともに、平成28年度までとなっておりますことから、今後の需要予測を的確に見積もり、施設の更新や耐震化の進め方、さらには事業運営の効率化などについて長期的視点から十分に検証を行い、平成29年度からの次期算定期間における負担のあり方について議論を重ね結論を出して参りたいと存じます。
(災害対応力の強化)
地域防災力の強化を図るため、リーダーとなる「防災マスター」の認定は、発足以来順調に増員しており、現在25名の方々が自主防災訓練等の講師などで精力的に活動されております。
引き続き防災に対する意識を高めるために、町内会等に自主防災訓練や避難所単位の合同防災訓練の実施を呼びかけ、その中で各地区に想定される災害をハザードマップで確認し、自ら避難判断が図られるように進めて参ります。
防災行政無線の整備につきましては引き続き浜益区・石狩川右岸において整備を進めて参ります。
第3の重点 持続する地域創生に向けて
(地域創生に向けた取り組み)
厚田区において2年余議論を重ねてきました複合施設の建設構想は、昨年、国土交通省より「重点道の駅」として選定されました。国道231号線の130km区間は避難・休憩施設がありません。厚田区で進めている「道の駅」は「情報発信基地」「休憩施設」「地域産物の高付加価値事業拠点」「自然観光資源の案内所」「地域の歴史拠点」や浜益区の特性を活かした「アクティビティターミナル」のサービスを提供するとともに、公共サービス機能として「デマンド交通結節点」や「一時避難所」など、将来さまざまな役割を担うこととなります。開業時に総てをそろえることは難しい面もありますが、順次導入を図って参ります。
このため新年度、民間経営ノウハウを有する人材を招き、平成30年春の開業に向け、会社設立、商品開発、地元販売体制の確立など具体的な準備・試行をするほか「複合施設」の実施設計と造成工事を進めて参ります。
(石狩版スマートコミュニティーの推進)
4月より電力小売りの自由化がスタートし、消費者がエネルギーの選択を可能とする大きなパラダイムシフトが起きるものと考えられております。石狩湾新港地域における「超電導直流送電実証実験」は、再生可能エネルギーから超電導ケーブルを用いたデータセンターへの送電に成功し、新年度においても実証事業を継続するものと聞いております。
また、道内企業による液化天然ガス(LNG)貯蔵施設や火力発電所の建設、民生系白物オイルタンクの稼働促進に協力するとともに、アジア最大級の洋上風力発電事業についても適切に対応を図って参ります。
電力システム改革、エネルギー政策など国の動向を追い風としながら、戦略的に民間事業への支援、協力を行い、環境に優しい「省エネ・創エネ・蓄エネ」のバランスの取れた石狩版「スマートコミュニティー」の実現を目指して参ります。
(スポーツは地域と人を変える)
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの追加種目として、野球・ソフトボール競技が国際オリンピック委員会(IOC)に提案されており、本年8月にリオデジャネイロで開催される大会直前の総会において決定されるものと期待しているところであります。本市では、これまでも市民スポーツとして、子どもからお年寄りまでソフトボールに親しんでおり、花川中学校の女子ソフトボール部は本年3月に広島県尾道市において開催される「第12回都道府県対抗全日本中学生女子ソフトボール大会」に出場しますので、派遣支援を行って参ります。
また、9月には、札幌市を始めとした本市を含む周辺都市を会場として、軟式野球界最大の権威ある「天皇賜杯第71回全日本軟式野球大会」が開催されます。これら「野球・ソフトボール競技」を市全体で応援し盛り上げて参りたいと考えております。
昨年に引き続きソフトボール大会の誘致をはじめ、国内外チームの合宿招致に向けたアピールをして参ります。
石狩市で始めた「カローリング」は、年代、障がいなどの壁を越え、ともに汗を流しています。参加した知的障がい者「大地の会」のメンバーは、はじけるようにスポーツの喜びを表現しておりました。引き続き全道大会が開催できるよう、支援して参ります。
また、次世代を担うアスリートの発掘や育成、施設整備を進めるとともに多種目、多世代、多志向のスポーツ活動やレクリエーション事業を実施し、スポーツを通じた「人材育成」や「世代間コミュニケーション」の醸成に取り組んで参ります。
(光を放つ地域資源―北海道観光の新拠点化を目指して)
合併10年を迎え、地域協議会を中心に両区の特性を活かしたまちづくりへの取組が進められ、着実な地域活動の伸展を実感しております。浜益区では、これまで将来にわたって持続可能な公共交通の検討を進めて参りましたが、より市民の利便性向上を図る新たな手段としてデマンド交通運行事業を始動することといたします。
また、本年から8月11日が「山の日」として国民の祝日となります。国定公園であります暑寒別を世界に発信するため、増毛山道の開通に協力するとともに、山地を周回するルート開発を行うなどインバウンド導入をも視野に入れて、展開して参ります。また、NPOを主体としながら国や道とも連携を図り、国指定文化財、歴史山道、巨木文化、漁ろう文化施設等の歴史・自然など、日本海側北部地域へのゲートウェイとして戦略的に地域資源を活用して参ります。
おわりに
土地開発公社の問題は、本市発展の反対軸、いわば影の部分であり、追いかけても消えることの無い余りにも深刻で、有効な手だてが見つからないまま、長い年月を費やしてきました。
市長就任16年の間、この問題を抱えながらの行財政運営は、時に、忸怩たる思いがあったことは否定しようもありません。
十数年かけて取組を続ける中で、私とともに歩んだ市職員、提案と叱責をいただいた先輩や同僚、その悩みを共有していただいた市議会議員の各位、そして何よりも私たちを信頼してくださった市民の皆さまに対し重くのしかかっていたこの問題に、一定の方向性と具体性を報告できることは、何ものにも代え難いものがあります。
同時にこのような事態に陥ったことを深くおわび申し上げるとともに、その責任の重さをあらためて痛感しております。これまで膨れ上がった損失を一括して処理の上、解散することとなります。今後のさらなる損失拡大を防ぐためには、この方法以外の対案は無いとの判断をいたしたものであり、何とぞご理解を賜りますようお願いを申し上げます。
昨年、30年後のまちの未来像を描いた総合計画がスタートし、本年は市制施行20周年を迎える節目の年となります。本市は地理的な優位性のほかに「自然・地勢」や「産業」「技術」「歴史・文化」などの「強み」を有しております。
とくに市政の中核をなす石狩湾新港の発展を支えてきたものは、先人たちの情熱と決断、立地企業や市民の石狩愛であり、それは 大切に育てていくべきものと考えております。
次は私たちが未来の先人として、未来を生きる市民に何を残し伝えていくかであります。
内包する本市のポテンシャルを発掘し、その優位性を十分活かした都市へと発展するには、終わりなきチャレンジと故郷石狩への至誠にほかならないと確信しております。
皆さまのご理解とご協力をいただきながら、市の成長へと邁進して参ることを申し上げ平成28年度の市政執行方針といたします。