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いしかり博物誌/第21回

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年7月31日更新


第21回 防風林を彩るスプリングエフェメラル

 石狩の春といえば真薫別(まくんべつ)湿地のミズバショウがおなじみですが、同じころ市内の防風林や高岡地区の沢筋では、フクジュソウ、カタクリやエゾエンゴサクが花開きます。黄、白、赤、青の彩りは、落葉広葉樹林の春ならではの光景です。これら植物は、4月下旬から5月上旬までの2週間ほどの間に花が見られ、やがて結実し、初夏の訪れとともに地上から消えていきます。
 これらの植物は、その命のはかなさから、スプリングエフェメラル(春の妖精)としばしば呼ばれます。
フクジュソウの写真   カタクリの写真   エゾエンゴサクの写真
 さて、林の中で生きる草花たちにとってのこの季節の魅力とは? 北海道の森林には、落葉広葉樹と針葉樹とがありますが、石狩市内に防風林や湿地林として残る天然林は、ほとんど落葉広葉樹から成ります。冬に葉を落としていた落葉広葉樹たちは、春を迎え、葉を広げるわけですが、木々が葉を茂らせるまでには少々時間がかかります。雪が林の地表から消えてから木々の枝に葉が茂るまでのひと月の間、林の中は雪も木々の葉もなく、日の光が存分に差し込み、地表は暖かく適度に湿り、とても穏やかな環境になっているのです。ハチやハナアブたちも目を覚まし、花々の蜜を集め花粉を運び、草花たちの子孫づくりを手伝います。

 スプリングエフェメラルは、落葉広葉樹林に注ぐ春の光を生涯の糧(かて)にして生きているのです。ササが生い茂った林では一年中、光がほとんど地表まで届かず、これらの植物が生育するのは難しくなってしまいます。近年、市内の防風林では、乾燥化やササの増加などによって、これらの植物たちが減少してきているとの声も聞かれます。

 花川の防風林では、春の妖精たちの種類は減りますが、スミレやオオバナノエンレイソウが明るい林内を彩ります。繁殖期を迎えた鳥たちもさえずり飛び交い、林の中が最も賑わう季節。こんな石狩の防風林の春の光景、大切に見守っていきたいですね。(石狩浜海浜植物保護センター/前野華子)
花川南防風林 オオバナノエンレイソウの群生の写真