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いしかり博物誌/第30回

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年7月31日更新


第30回 自然のタイムカプセル

キツツキの食痕のある倒木の写真

 石狩紅葉山49号遺跡のうち、サケなどを捕獲するエリを初めとする木製の遺構・遺物が出土した場所は縄文時代に流れていた旧河川(現在の発寒川)の中です。この部分は標高0メートルから1メートルで常に地下水で満たされています。このような旧河川の中や泥炭地など、常に水付きの状態にある遺跡を低湿地遺跡と言います。
 低湿地遺跡では、木や動物の骨など普通、早ければ数年で分解してしまう種類の遺物が長期間ほぼ原形のまま保存されます。紅葉山49号遺跡では、実に4000年もの間、遺物が保存されてきたわけです。
 残るのは、人工的な遺物ばかりではありません。当時、付近に生えていた木や草なども残ります。これらは、自然遺物と呼ばれます。これらは現地性のものが多く、遺跡のあった当時の自然環境を(動植物相、気候など)知る上で大切な資料です。

 これまで出土した自然遺物には、ヤチダモ、ヤナギなどの倒木、オニグルミ、ドングリ、ヒシなどの実、キノコ、貝、小動物の骨があります。変わったところでは、話題となったヒグマの足跡やキツツキの食痕(しょくこん)などがあります。ちなみにこれらは、地質学的にいえば一種の化石で、生痕化石(せいこんかせき)と呼ぶことができます。

肉団子のような虫えいの写真
 一般に自然遺物は、考古学の範囲外でこれらの調査にあたっては植物や動物などの研究者にお世話になることが多いのです。昨年出土した自然遺物の中で専門家に見てもらって初めて正体がわかったものの一つに、「虫(ちゅう)えい」があります。
 これは出土した当時、木に肉のようなものが巻きついているように見え、しかも弾力もあるところから調査スタッフの間でも大変話題になったものです。しかし、いくら有機質の遺物が残るとはいっても、肉そのものが残るとは思われません。
 そこで鑑定に出してみると、「虫えい」または「虫こぶ」と呼ばれる木の一部が変形したものでした。これはアブラムシやハチなどが寄生や産卵したため、木が異常発育してできるものだそうです。

 このように低湿地遺跡は、人工的な遺物ばかりでなく当時の環境も同時に封印されており、自然のタイムカプセルと言うことができます。   (石橋孝夫)