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いしかり博物誌/第50回

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年7月31日更新


第50回落葉しないのはなぜ? ―カシワの越冬大作戦―

防風林や街路樹の木々が葉を落とし、雪が大地を覆う季節…。しかし、石狩の海岸に近い林では、茶色く枯れた葉が落ちることなく枝先に茂っています。さて、この枯れ葉、いつまで落葉しないで残っているのでしょうか。

この落葉しない木の名は、カシワ。東北以北の海岸林に多く見られる木です。

冬のカシワ林(平成14年1月)の写真
↑冬のカシワ林(平成14年1月)

日本海からの強風が吹きぬける冬の石狩浜。しかし、カシワの枝先から枯れ葉は落ちることなく、春を迎えます。5月下旬、新葉が芽吹くのとあわせて、冬を越した枯れ葉は落葉していくのです。

なぜ、カシワは冬の間、かたくなに枯れ葉を着けつづけるのでしょうか。

木の葉と枝は、互いに養分や水分を行き来させるための微小な管でつながっています(篩管(しかん)、導管(どうかん)といいます)。葉が落ちるとき、この管は途切れ、そこに微小ですが、穴があくことになります。この穴は自然に塞がれますが、やはり完全に塞がるには時間がかかります。

海からの強風は、海水すなわち、塩分を沿岸へ運びます。海岸を生活の場としているカシワにとって、葉を落としてしまうと、落葉の痕から、塩分が樹体内に入ってしまいかねません。これは、樹木にとって大きな障害です。

そこで、カシワは新葉が開くまで枯れ葉をつけたままにしておくことで、海から飛んでくる塩分から身を守る。このような説が一つに考えられています。

カシワの去年の彼はと今年の新葉の写真
↑5月末の開葉。去年の枯れ葉と今年の新葉、雄花が混在。

厳冬期、海に近い林で枯れ葉を茂らせた木を見つけたら、それはカシワ。北国の海岸の厳しい環境を必死に生き抜く姿なのです。

昔より、北日本では海岸のカシワを薪炭材として利用してきた地域が多く、海岸の天然林の多くは失われてしまいました。しかし、石狩には天然のカシワ林が広く残ります。これは、先人達が防風林として守り残してきた、大変貴重な財産です。

カシワの枯葉の間の冬芽(ふゆめ)の写真
枯れ葉の間の冬芽(ふゆめ)。
冬芽も、葉によって強風から守られているのでしょうか。

(内藤華子 広報いしかり2003年12月号掲載)