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いしかり博物誌/第54回

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年7月31日更新


第54回防風林に春告げる「ナツボウズ」

ナツボウズと聞いて、どのような植物を想像しますか?「夏坊主」=「夏に葉がない」を意味するこの名前の持ち主は、黄色い花を咲かせて防風林に春を告げる植物。「ナニワズ」の別名で知る人の方が多いかもしれません。

早春、雪が消えまだ草の芽吹きもまばらな林の地面に、緑の葉を茂らせた植物が見つかります。星のような小さな花が集まって咲いている株もあるでしょう(写真2)。

さて、このナニワズの春一番の青々とした葉は、いつ開いたのでしょうか。

季節を昨年の8月に戻してみましょう。写真3でさしている実は赤色で、春に咲いていた花が結実したもの。その上に、開き始めた若葉を見ることができます。そうです、春一番にしげっている葉(写真1)は、昨年の8月に開いた葉なのです。それで、秋、雪降る前の防風林でも、葉を茂らせ、翌春開くつぼみを付けたナニワズを見ることができるのです。

雪解け直後のナニワズ(=ナツボウズ)。葉がしっかり付いている。
写真1 雪解け直後のナニワズ(=ナツボウズ)。葉がしっかり付いている。
春を告げるナニワズの黄色い花。
写真2 春を告げるナニワズの黄色い花。
8月のナニワズ。
写真3 8月のナニワズ。


春、ナニワズは、花の時期と重ね、越冬していた葉に加えて新たな葉も開きます。これで、林の地面まで差し込む光を存分に吸収するのです。

そして6月、上層の木が葉を広げ、林が新緑の季節を迎えるころ。薄暗くなった林内で、葉が黄色くなっているナニワズを見つけるでしょう。夏に向けて、すべての葉を落としていくのです。

そうです、これが「ナツボウズ(夏坊主)」の名のゆえんなのです。7月には、地面から伸びる枝と、それに付く未熟な緑の実だけが残り、その株を見つけるのはかなり難しいでしょう。そしてまた、立秋を過ぎたころ、秋に向けて再び新葉を広げ始めるのです。

上層の木の葉と、葉を付ける時期を逆にすることで、夏の薄暗い林内では休眠し、春と秋の明るい林内で光を存分に得ます。落葉広葉樹林の地表で生活するための作戦を、「ナツボウズ」から読み取ることができますね。

(内藤華子 広報いしかり2004年5月号掲載)