石狩のエゾアカヤマアリ
石狩ファイル0137-01(2014年1月15日)

(アリ類データベースより)
1970年代、石狩海岸には約4万5000巣からなるエゾアカヤマアリFormica yessensisのスーパーコロニーが広がり、保存されるべき生物現象として1983(昭和58)年版IUCN(国際自然保護連合)レッドデータブックに登録されました。以来、このスーパーコロニーは「世界一大きなアリのコロニー」として知られるようになりました。
アリは通常、他種のアリ類はもちろん、同種でも、異なる巣間には必ず激しい敵対関係がみられます。ところが、石狩海岸のエゾアカヤマアリは、同種の巣間で敵対関係が全くみられないうえに、巣の廃棄、廃巣の再利用、新巣造りを繰り返して、その度にハタラキアリや女王アリの巣間混合が起こっています。
1973(昭和48)年と1974(昭和49)年の調査によると、エゾアカヤマアリの巣は、石狩川河口左岸から銭函までの約13.5キロメートルに約4万5000分布し、1巣あたりのハタラキアリ数は約6800、女王数は24、全体で約3億600万個体のハタラキアリと約108万個体の女王が一つのコロニーを形成していると推定されました。
このような一大コロニーができた原因については、いくつか考えられています。
そのひとつは、石狩海岸ではオスの結婚飛行時間(7月末~8月の昼ごろ)に、陸からの風が吹きやすく、飛翔力のあるオスは皆、海へ飛ばされて死んでしまい、飛翔力のないオスが残って同じ巣の新女王と結婚することが多くなる現象です。しかしそれが主原因であれば、コロニー内の血縁度が高くなるはずですが、実際には血縁度は決して高くはないようです。
次に考えられるのは、環境や餌が均一だからではないか、ということです。アリの仲間認識は体表の炭化水素の組成を手掛かりとしており、これには、巣材や餌メニューなどの環境条件が大きく左右すると考えられています。その点から見ると、石狩海岸は砂地で営巣環境がほぼ均一です。実際、スーパーコロニーは新川河口をはさんで両岸にひろがっていますが、もともとは別々に出来たコロニーに由来すると考えられています。それに対して、腐食土や粘土地に営巣している石狩川右岸のエゾアカヤマアリは左岸のアリとは敵対します。
このように、スーパーコロニーができた理由については、いくつか推測されていますが、まだ正確には分かっていないようです。
1970年代には一大コロニーを形成していたエゾアカヤマアリも、1980年代から本格化した石狩湾新港開発やレジャー利用による海岸草原への車の乗り入れなどの影響で、巣の数は大きく減ってしまい、2000年代以降は最盛期の10分の1になってしまったと云われています。
(石井滋朗)
参考文献
- 東正剛(2011)滅びゆくスーパーコロニー.北海道の自然49,39-45.
- 石狩浜海浜植物保護センター(2005)はまぼうふう16,3-4.
- 札幌市教育委員会編(1990)さっぽろ文庫52/札幌昆虫記.札幌市教育委員会.
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