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石狩ファイル0115-01(2010年10月31日)

石狩海岸のカシワ林

いしかりかいがんのかしわりん


石狩市南部から小樽市東部の海岸に沿って、カシワの天然林が広がっています。汀線(ていせん)から100〜200m離れた砂丘・草原の内陸側からはじまり、幅500〜600m、最大幅は800mで小樽市銭函(ぜにばこ)から石狩川河口付近まで約15km(面積653.4ha)、さらに石狩川河口右岸から厚田の無煙(むえん)浜まで合わせて約20kmに及ぶもので、カシワの天然林としては日本最大級の海岸砂丘林です。このカシワ林は、江戸末期に石狩役所が乱伐を禁止する布令を出して保護したもので、大正10(1921)年には海岸保安林に指定され、後背地を強風と飛砂から守ってきました。このカシワ林のうち、約2分の1は石狩市になります。

カシワはブナ科に属し、柏餅でおなじみの広い葉をつけ、秋にはドングリの実をつけます。落葉樹ですが、翌年の新葉が出てくるまで葉を落とさないので、早春になっても枯れた葉が風にゆれています。樽などを作る用材になる他、樹皮からタンニンがとれます。人間にとって有用なカシワですが、種子のドングリは、多様な動物の越冬のエネルギーとなり、その生命も支えています。

石狩浜のカシワ林は、浜に近い部分では強風にさらされるため樹高が伸びず、内陸に進むに従って丈高く、またカシワ以外の樹種も混じるようになって、独特の景観を作り出しています。かつては、道内他地域の海岸にも多く見られたカシワ林ですが、場所によっては乱伐によって姿を消していきました。石狩のカシワ林にも、何回か大規模な伐採が計画されたり、伐採の手が入ったりしたことがありました。太平洋戦争時には、一部国有地のカシワを燃料用に住民に切らせたり、札幌オリンピックの施設を建設中には、土砂の採取のためにカシワの木も一部切られたのです。また、大規模な伐採が懸念されたのは、昭和27(1952)年、米軍が石狩海岸を上陸演習地に使用しようと計画した時と、昭和53(1978)年、石狩湾新港建設の時でした。前者は、防風、防砂のために必須であることを知る町長や農漁業者が官民を挙げて反対運動を起こしたため中止となり、後者は、当時「道内初の環境アセス」と言われた広範な環境調査を実施した上、保安林保護のための付帯条件をつけて建設が実施されました。

カシワ林には、国有地の部分と民有地の部分があり、それぞれ様々な理由で小規模な伐採が行われ、開拓の斧が入る前の原生林の姿が失われてしまったところもありますが、それでも保安林を必要とする人たちや自然環境としてカシワ林を残すことを熱望する人たちの力によって現在の規模を保っています。

なお、平成元(1989)年、北海道自然環境保全指針の「すぐれた自然地域」として、石狩海岸の天然防風林(カシワ・ミズナラ林)と海岸植生(海岸草原)が選定されています。

(林 迪子)


参考文献


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